ホンダ(本田技研工業)がイギリスのEU離脱(Brexit, ブレグジット)を受け、スウィンドン(Swindon)の工場を閉鎖することに決断したニュースが先日から世界を騒がせています。
30か国語で報道しているドイツの国際的なメディア「Deutsche Welle (ドイチェ ヴェレ)」でも記事が公開されていました。記事の一部を下記に訳して引用として使用させて頂きます。
ホンダがSwindon(スウィンドン)工場閉鎖へ
日本の自動車会社の巨人であるホンダがイギリスにある唯一の自動車工場を2021年に閉鎖すると告知した。そして数々の自動車製造会社が、イギリスでの操業を見直す計画だと発表した。合意なきブレグジットが供給ラインを阻害する可能性を懸念しての決断だ。
Deutsche Welle, NEWS, Honda closure adds to UK’s Brexit gloom, Date 19.02.2019
まずは基本的な部分からおさらいしてみましょう。
ブレグジットとは
“Brexit“とは英語の”British (イギリスの)”と”exit (退出)”を組み合わせた混成語で、イギリスがEU (欧州連合) から離脱することを差します。イギリスでは、EU加盟国であり続けたいか、それともEUから離脱したいかを問う国民投票が2016年の6月に行われました。その結果「EU離脱」派が過半数 (52%弱) を占めたため、イギリスはEUから離脱することになりました。
イギリス以外にもEU懐疑論は存在する
イギリスだけでなく、EU加盟国でEUに対して懐疑的な意見が高まっている国は複数あります。
理由は多岐に渡ります – 経済的理由(経済の話になるとユーロという通貨を採用したことによるメリット/デメリットが主な論点になるため、今回は割愛させて頂きます)、モノや人の流動性、国民性といった各国のアイデンティティ…。
EUという組織を設立*またはEUに加盟したことで、全体として自国が恩恵を受けていると思う国はEUに留まり続けることを支持しますし、逆にEU加盟したけれど恩恵を受けていない、むしろデメリットが多いと感じる国は、EU離脱の機運が高まる傾向にあります。
*原点の原点に遡ると、ドイツとフランスが戦後の平和を保つために、双方の国で重要産業だった石炭と鉄鉱石業界をまとめた組織を作ったことが、今日のEUのスタート地点になります。石炭と鉄鉱石は戦争で使う武器を製造する際に最も必要な原料であったため、この産業を統一することで、相手国に秘密で武器を製造し戦争に備え始めるということが不可能になりました – これが平和維持において重要ポイントとなりました。
最もよく耳にする理由は、EUという、国で言う政府のような組織 – 欧州委員会(European Commission), 欧州連合理事会 (Council of the Europe), 欧州理事会 (European Council) そして欧州議会 (European Parliament) が主要組織 – がEUの仕組みやルールを決め、それに従わなければならないため、自国で何でも決めることができなくなる – 要は柔軟性が失われる不便さが主な理由であることが多いです。
これに伴って、その国らしさ – その国独自のアイデンティティが薄れるという主張も出てきます。そのため、EU離脱を主張する政党は、ポピュリスト(右派)である場合が多いです。国民のレベルで見ると、EU離脱の支持者は年配の層や田舎に住む人々など、いわゆる「保守的」なタイプが多いです。
イギリスのEU離脱反対派
逆に国際的な人々や若者、特に大卒以上で知的レベルが高く収入も満足な層は、EU離脱に反対する場合が多いです – Brexitは、多国間で協力してより発展していくという、現代の国際社会のアイデアに反する考え方だからです。
筆者にイギリス人の知り合いは沢山いますが(ほぼ皆ドイツで出会った人たちです)ブレグジットを支持している人は一人もいません。皆「Brexitだなんて、母国イギリスはどうかしてしまった」と言っています。
ブレクジットによりイギリスでビジネス撤退が続く
Swindonの街の近郊にある工場は、ここ数年は苦戦しているとは言え、イギリスの全自動車生産量のうち10%以上を占めている。閉鎖の発表は、イギリスにて3,500もの役職が失われることを意味する。
DEUTSCHE WELLE, NEWS, HONDA CLOSURE ADDS TO UK’S BREXIT GLOOM, DATE 19.02.2019
ブレグジットを支持する政治家は、ホンダのこの決断はBrexitとは無関係だと主張しているそうですが、論理的に考えてその主張は無理がありますよね…。
個人的にはブレグジットには反対なので、イギリスが経済的に国家として衰退していく様を見るのは非常に気の毒です…とは言え、EUを離脱することでEUへ回っていた資金を自国のみに使うことができるというメリットがあるのは事実であるため、企業の撤退などにより雇用機会が減って衰退する可能性はありますが、国の口座残高が増える可能性ももちろん否めません。
政治的には前例がなく、離脱までのプロセスそして離脱後のイギリスの衰退もしくは発展に関して、今後どのように展開していくのか非常に興味深いというのは、正直なところですね。
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